生理前になると、気分が落ち込んだり、イライラしたり、胸が張ったり、眠気や頭痛に悩まされたり…。これらの症状に悩んでいる女性は少なくありません。こうした心身の不調は、PMS(Premenstrual Syndrome:月経前症候群)と呼ばれる状態で、20代〜40代の女性の多くが経験しているとされています。
PMSは症状の種類や重さに個人差があり、仕事や家庭生活に大きな支障をきたすケースもあります。一方で、症状に応じた市販薬やサプリメント、生活習慣の見直しで大きく改善することも可能です。
この記事では、薬剤師の立場から、PMSの主な症状ごとにおすすめの市販薬やセルフケアアイテムを紹介します。また、症状が重い場合に病院での治療法や、PMSと向き合うためのQ&A形式の解説も掲載しています。
PMSの主な症状と原因
PMSの症状
PMSの症状は大きく分けて2種類に分類されます。
心の症状(精神的) | 体の症状(身体的) |
---|---|
・イライラ・怒りやすい | ・頭痛・腹痛 |
・落ち込み・憂うつ感 | ・乳房の張り・痛み |
・不安感・情緒不安定 | ・便秘・下痢 |
・集中力の低下 | ・むくみ・体重増加 |
・眠気・不眠 | ・肌荒れ・ニキビ |
症状は排卵後〜生理開始までの間に強くなり、生理が始まると自然に軽くなるのが特徴です。
PMSの原因
PMSの原因ははっきりとは解明されていませんが、排卵後に分泌される「黄体ホルモン(プロゲステロン)」と「エストロゲン」のバランスの変化が深く関与しています。
特に、黄体ホルモンが優位になることで情緒が不安定になりやすくなったり、体に水分がたまりやすくなったりします。
また、ストレスや生活習慣、栄養バランスの乱れもPMSを悪化させる要因とされています。
PMSの生活への影響
1. 仕事や学業への影響
- 集中力の低下
頭がぼーっとして作業効率が落ちる、ミスが増えるなどの支障。 - 疲労感・眠気
仕事中に強い眠気があり、会議や授業に集中できない。 - 判断力の鈍化
緊急の対応や複雑な業務判断が遅れる。 - 欠勤・遅刻
痛みや倦怠感が強く、出勤や通学が困難になる。
2. 家事や日常生活への支障
- 家事の手抜きや放棄
掃除・洗濯・料理などの家事が億劫になり、溜まってしまう。 - 買い物や外出の回避
疲労感や気分の落ち込みで外に出たくなくなる。 - 食生活の乱れ
甘い物やジャンクフードを過食してしまう、または食欲不振になる。
3. 人間関係への影響
- イライラしやすくなる
家族や同僚、友人に対して怒りっぽくなり、衝突が増える。 - 感情のコントロールが難しい
ちょっとしたことで泣いてしまう、落ち込む。 - 孤立感
周囲に理解されず、症状を我慢して関係がぎくしゃくする。
4. 趣味や自己啓発活動への支障
- やる気が起きない
趣味や習い事へのモチベーションが低下。 - 集中できない
読書や映画鑑賞も楽しめず、達成感が得られない。
5. 身体的な行動制限
- 運動習慣の中断
ジムやランニングなどの運動を休んでしまい、体力低下や体重増加につながる。 - 睡眠リズムの乱れ
寝つきが悪くなったり、夜中に目が覚めたりして翌日に疲れを持ち越す。
市販薬とセルフケアアイテムの選び方
PMSは根本的に「女性ホルモンのバランスの乱れ」が関係しています。そのため、市販薬を選ぶときは以下のような成分を含むものが効果的です。
成分名 | 効果・作用 |
---|---|
漢方薬(加味逍遥散、桂枝茯苓丸など) | ホルモンバランスの調整・精神安定 |
ビタミンB6 | 神経伝達物質の生成、気分安定に寄与 |
カルシウム・マグネシウム | 神経の興奮を抑える、筋肉のこわばりを和らげる |
プラセンタエキス | 自律神経を整え、肌荒れや情緒不安定に作用する |
鎮痛成分(イブプロフェンなど) | 頭痛・腹痛の緩和 |
チェストベリー※ | 女性ホルモンの分泌バランスを整える |
チェストベリー(学名:Vitex agnus-castus)とは?
地中海沿岸や中央アジア原産の落葉低木「チェストツリー」の実を乾燥させたものです。
古代ギリシャ・ローマ時代から女性のホルモンバランスを整える民間薬として使われ、特に月経前症候群(PMS)や月経困難症、更年期症状に対して効果が期待されています。
海外では「女性のためのハーブ」と呼ばれることもあります。
チェストベリーは、脳の「下垂体」に働きかけ、ホルモンの分泌量を自然な状態に近づける作用が期待できます。これにより、月経前のつらい症状が軽くなると考えられています。
主な効果
①PMS(月経前症候群)の症状をやわらげる
イライラ、気分の落ち込み、胸の張り、頭痛などを和らげる作用があります。
②排卵をサポート
チェストベリーは、脳から分泌される「プロラクチン」というホルモンを整えることで排卵のリズムを安定させます。
③更年期の症状にも有用
ホルモンバランスの変化によるホットフラッシュ(のぼせ)や気分変動にも効果があるとされます。
PMSにおすすめ市販薬・サプリメント
プレフェミン(ゼリア新薬)
- 欧米で人気の「チェストベリー」配合
- 精神的な不安・怒りっぽさ・乳房の張りに
主成分:チェストツリー乾燥エキス(チェストベリー)
分類:第2類医薬品
使い方:1日1回、1錠
命の母ホワイト(小林製薬)
- PMS症状全般に対応する漢方系医薬品
- イライラ・冷え性・生理痛に
主成分:当帰芍薬散
分類:第2類医薬品
使い方:1回4錠、1日3回毎食後
トコエル(大塚製薬)
- 月経前の健やかなこころとからだをやさしくサポート
主成分:トコフェロール、エクオール、大豆イソフラボン
分類:機能性表示食品
使い方:1日3粒
母の滴 プラセンタ(フローレス)
- 多数生理活性をもつプラセンタが体のPMSのさまざまな不調から美容、アンチエイジングに至るまでサポート。
主成分:プラセンタ
分類:栄養補助食品
使い方:1日1~2カプセル

PMS対策の生活習慣|セルフケアで整える
PMS(月経前症候群)の症状を和らげるためには、市販薬やサプリメントだけでなく、日々の生活習慣を整えることが非常に重要です。ここでは、症状の緩和に効果的とされるセルフケアのポイントを、科学的根拠や医師・薬剤師の指導をもとに解説します。
睡眠|質と量を見直す
PMS症状を抱える女性は、睡眠の質とホルモンバランスが密接に関係していることが分かっています。具体的には:
- 毎日同じ時間に寝起きする
- 寝る1時間前からスマホやPCを控える(ブルーライトカット)
- ぬるめの湯に浸かり、身体を温める
良質な睡眠は、セロトニン(幸せホルモン)の分泌を促進し、イライラや気分の落ち込みを和らげる作用があります。
食事|血糖値コントロールと栄養補給を意識
PMSに悩む方にありがちなのが、「甘いものが無性に食べたくなる」現象。これは血糖値の急上昇と急降下が引き金になり、情緒不安定を引き起こす原因となることも。
おすすめの食生活のポイントは以下の通りです:
- 白米より玄米・雑穀米など低GI食品を取り入れる
- 糖分は果物やはちみつ、オリゴ糖など自然なものから摂取
- マグネシウム(ナッツ類)、ビタミンB6(バナナ・レバー)を意識
さらに、鉄分・カルシウム・亜鉛などのミネラル不足もPMSを悪化させるとされており、必要に応じてサプリメントで補うのも有効です。
運動|軽い有酸素運動で自律神経を整える
適度な運動には、エンドルフィン(幸福ホルモン)の分泌を促す作用があり、PMSのイライラや不安を緩和することができます。特に以下のような運動が効果的です:
- ウォーキングやストレッチ(1日15分~)
- ヨガやピラティスなど、ゆったりした動きのもの
- PMS特化型のエクササイズ(YouTubeやフィットネスアプリを活用)
激しい運動は逆にストレスとなる場合があるため、自分が心地よく続けられる程度で行うことが大切です。
ストレスケア|心の負担を減らす時間をつくる
ストレスはPMSの最大の悪化要因とも言われます。以下の方法で、心をリラックスさせる習慣を取り入れましょう:
- 深呼吸・瞑想・マインドフルネス
- アロマテラピー(ラベンダー・ゼラニウムなど)
- 趣味や音楽鑑賞で気分転換
女性ホルモンのバランスはストレスによって簡単に乱れてしまうため、無理せず自分を労わる時間を日常に組み込むことが大切です。
Q&A|PMS対策に関するよくある質問
Q1. 生理前のイライラに効く市販薬はありますか?
A. はい、漢方薬の「加味逍遥散」や「命の母ホワイト」などがおすすめです。ホルモンのバランスを整える作用があります。
Q2. PMSの頭痛は普通の鎮痛剤でいいの?
A. 生理前の頭痛にも市販の鎮痛薬(イブプロフェンなど)は有効です。ただし、毎月繰り返す場合は根本的なホルモン対策も併用を。
Q3. 病院ではどんな治療を受けるの?
A. 婦人科では低用量ピルの処方や、ホルモン療法が行われます。また、精神症状が強い場合は抗不安薬が出ることもあります。
病院でのPMS治療とは?
PMSの症状が市販薬や生活改善で抑えられない場合は、婦人科での治療が必要です。
主な治療方法:
- 低用量ピル
ホルモンバランスを安定させて症状を緩和。生理痛にも効果的。 - SSRI(抗うつ薬)
精神的な症状(イライラ、不安、うつ)に使用される。 - 漢方薬の処方
証(体質)に合った処方で加味逍遥散や当帰芍薬散などが出される。
まとめ|自分に合った方法でPMSと向き合おう
PMSは「気のせい」ではなく、女性ホルモンの変化によって引き起こされるれっきとした症状です。症状が軽度であれば、市販薬や生活習慣の見直しで改善が期待できます。一方で、症状が重く日常生活に支障が出るようなら、一度婦人科での診察を受けてみるのも選択肢です。
ぜひ、この記事を参考にして、自分に合った方法でPMSと付き合っていってください。