「胃がシクシク痛む」「食後に重苦しい」「キリキリするような痛みが続く」——胃痛は、多くの人が一度は経験する症状です。
一時的なストレスや食べすぎで起こることもあれば、胃潰瘍や逆流性食道炎といった病気のサインである場合もあります。
近年は市販薬(OTC)でも幅広い種類が販売されており、セルフケアで改善できることも少なくありません。ただし、自己判断に頼りすぎてしまうと病気の発見が遅れることもあります。
この記事では薬剤師の視点から、胃痛の原因・考えられる疾患・市販薬の選び方・病院受診の目安 を徹底解説していきます。
胃痛から考えられる主な疾患
胃痛とひとくちに言っても、その背景にはさまざまな疾患が隠れています。
- 急性胃炎:暴飲暴食、刺激物の摂取、ストレスが原因。
- 慢性胃炎:ピロリ菌感染や長期的な胃粘膜の炎症。
- 胃・十二指腸潰瘍:強い痛みや出血を伴うことも。
- 逆流性食道炎:胸やけ・呑酸とともに胃痛を感じる。
- 胃がん:初期は自覚症状が乏しいが、進行すると胃痛を伴う。
- 機能性ディスペプシア:検査で異常がないのに胃の痛みや不快感が続く。
男性に多い胃痛の特徴
- ストレス性胃炎・胃潰瘍
- 働き盛りの30〜50代男性に多く、仕事や生活習慣によるストレスが大きな要因。
- 暴飲暴食やアルコール摂取、喫煙も胃酸分泌を過剰にし、胃粘膜を傷つけやすい。
- ピロリ菌感染
- 中高年男性はピロリ菌感染率が高く、胃潰瘍・胃がんのリスクが女性より高い傾向。
女性に多い胃痛の特徴
- ホルモンバランスの影響
- 生理前やPMS期に胃痛や胃もたれを感じる人が多い。
- 更年期には自律神経の乱れから胃の運動機能が低下し、胃の不快感や痛みが出やすい。
- ダイエットとの関係
- 食事制限や無理なダイエットにより胃酸過多や逆流性食道炎を起こすことがある。
子どもの胃痛の特徴
- 急性胃腸炎
- ウイルスや細菌感染による胃腸炎が多く、吐き気・下痢を伴う。
- 心理的要因
- 学校や友人関係のストレスで「心因性胃痛」を訴えるケースも少なくない。
- 乳幼児
- ミルクの吐き戻しや食物アレルギーが原因となる場合もある。
高齢者に多い胃痛の特徴
- 胃酸分泌の低下
- 加齢により胃酸の分泌が減少し、消化不良・胃もたれが増える。
- 薬剤性胃炎
- 高血圧や心臓病、関節痛で処方される薬の副作用(NSAIDsなど)により胃粘膜が荒れることがある。
- ピロリ菌関連疾患
- 長年の感染が慢性胃炎・萎縮性胃炎に進みやすく、胃がんリスクが上昇。
胃痛に使われる代表的な成分と作用機序
市販薬は「原因にアプローチする成分」によって分類されます。
制酸薬(胃酸を中和する)
- 成分例:炭酸水素ナトリウム、酸化マグネシウム
- 特徴:胃酸過多による痛みや胸やけに即効性あり
H2ブロッカー(胃酸分泌を抑える)
- 成分例:ファモチジン(ガスター10など)
- 特徴:胃酸分泌を抑制し、長時間作用する
PPI:プロトンポンプ阻害薬(胃酸分泌を抑える)
- 成分例:ラベプラゾール(パリエットS)
- 特徴:胃酸分泌をH2ブロッカーより抑制する
M1ブロッカー(胃酸分泌を抑える)
- 成分例:ピレンゼピン(ガストールなど)
- 特徴:胃酸分泌抑制はH2ブロッカーやPPIよりマイルド
胃粘膜保護薬
- 成分例:スクラルファート、テプレノン
- 特徴:胃酸から胃の粘膜を保護する
消化管運動改善薬
- 成分例:ドンペリドン、メトクロプラミド(※一部処方薬のみ)
- 特徴:胃の動きを整えて食後のもたれを改善
健胃生薬
- 成分例:オウレン、ケイヒ、ショウキョウ、ウイキョウなど
- 特徴:漢方薬や健胃薬に配合され、消化を助ける
H2ブロッカーとPPIの違い
胃痛や胸やけに使われる代表的な成分として、先にも書きましたようにH2ブロッカーとPPI(プロトンポンプ阻害薬)があります。どちらも「胃酸を減らす」目的で使われますが、作用の強さや発現の速さに違いがあります。
作用の仕組み
- H2ブロッカー
- 胃酸分泌を促す「ヒスタミンH2受容体」をブロック。
- 胃酸の分泌を抑えるが、抑制力は中等度。
- 例:ファモチジン(ガスター10 など)。
- PPI(プロトンポンプ阻害薬)
- 胃酸分泌の最終段階で働く「プロトンポンプ」を直接ブロック。
- 胃酸を強力かつ持続的に抑える。
- 例:ラベプラゾール、エソメプラゾール(パリエットなど)。
効果の発現時間
- H2ブロッカー:服用後30分〜1時間で効果が出る。
- PPI:効果が安定するまでに2〜3日かかる。
効果の持続時間
- H2ブロッカー:数時間〜半日程度。1日2回の服用が必要な場合もある。
- PPI:1日1回でも持続的に胃酸を抑えられる。
使用期間の目安
- H2ブロッカー:比較的短期の頓服や一時的な症状に使用しやすい。
- PPI:市販薬では2週間までの連続使用が目安。長引く症状には受診が必要。
まとめ表
項目 | H2ブロッカー | PPI |
---|---|---|
代表的成分 | ファモチジンなど | オメプラゾール、エソメプラゾール |
効果の強さ | 中等度 | 強力 |
効果発現 | 30分〜1時間 | 2〜3日 |
持続時間 | 半日程度 | 1日以上 |
向いている人 | すぐ症状を抑えたい人 | 胃酸過多・逆流性食道炎が続く人 |
OTCでの位置づけ | 第2類医薬品もあり比較的買いやすい | 第1類医薬品で薬剤師の説明が必須 |
「今すぐ症状を抑えたい」➡ H2ブロッカー
「慢性的に強い胃酸を抑えたい」➡ PPI
胃痛に効く市販薬レビュー|成分別おすすめ一覧
胃痛に対応する市販薬は、原因や症状のタイプによって選ぶ必要があります。ここでは 成分別に整理 しながら、代表的な商品を紹介していきます。
胃酸を抑えるタイプ(H2ブロッカー、PPI、M1ブロッカー)
ガスター10(第一三共ヘルスケア)
- 有効成分:ファモチジン
- 特徴:H2ブロッカーで、胃酸分泌をしっかり抑える。
- おすすめの人:胸やけや食後のキリキリした痛みが強い人に。
パリエットS(第一三共ヘルスケア)
- 有効成分:ラベプラゾール
- 特徴:PPIで、胃酸分泌をガスターよりしっかり抑える。
- おすすめの人:つらい胸やけや胃痛に。
※要指導医薬品のためネットでの購入は不可となっております。お求めはドラッグストアや調剤薬局に。
ガストール(エスエス製)
- 有効成分:ピレンゼピン(M1ブロッカー)、炭酸水素ナトリウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム
- 特徴:M1ブロッカーで、H2ブロッカーと異なるメカニズムで胃酸分泌を抑える。
- おすすめの人:胃酸逆流などによる胸やけに。
パンシロン(太田胃散)
- 有効成分:ピレンゼピン(M1ブロッカー)、水酸化マグネシウム、沈降炭酸カルシウムなど
- 特徴:胃酸の分泌を抑制して、出過ぎた胃酸を中和し、荒れた胃粘膜を修復・保護。
- おすすめの人:胃痛や胃酸が逆流することにって起こる胸やけに。
胃粘膜を保護するタイプ
セルベール整胃錠(エーザイ)
- 有効成分:テプレノン、ソウジュツ乾燥エキス、コウボク乾燥エキス
- 特徴:胃粘液を増やして、胃酸やアルコールによる刺激から胃を守る。
- おすすめの人:胃粘膜が荒れて痛みが続く人に。
スクラート胃腸薬(ライオン)
- 有効成分:スクラルファート、アズレンスルホン酸ナトリウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、ロートエキスなど
- 特徴:胃粘膜に直接作用し、保護膜を形成。炎症も同時に鎮める。
- おすすめの人:キリキリする胃痛や胃炎傾向に。
胃の動きを改善するタイプ
第一三共胃腸薬プラス
- 有効成分:健胃生薬(ケイヒ、ショウキョウなど6種類)、水酸化マグネシウム、リパーゼAP12
- 特徴:健胃作用で胃の働きを整え、胃もたれを改善。
- おすすめの人:食べすぎで胃が重い人。
太田胃散<分包>
- 有効成分:健胃生薬(ウイキョウ、ケイヒ、チョウジなど7種類)、炭酸水素ナトリウム、ビオヂアスターゼ
- 特徴:粉末タイプで即効性あり。
- おすすめの人:飲みすぎ・食べすぎの一時的な胃痛に。
胃痛で病院にかかるべき目安
上記の市販薬で対応できる胃痛もありますが、次のような症状がある場合は すぐに病院受診が必要 です。
- 胃痛が1週間以上続いている
- 繰り返し吐き気・嘔吐を伴う
- 黒っぽい便(タール便)や血の混じった嘔吐がある
- 急激で強い腹痛が出ている
- 体重が急に減っている
- 高齢者で食欲低下・倦怠感を伴う
こうした場合、胃潰瘍・胃がん・消化管出血 など重大な病気の可能性もあるため、早めの受診が重要です。
病院で行われる治療
胃痛で病院にかかった場合、主に以下のような診察・治療が行われます。
診断
- 問診(痛みの経過・食事との関連・ストレスなど)
- 血液検査(炎症や貧血の有無)
- 胃カメラ(内視鏡)で直接粘膜を観察
治療薬
- PPI(プロトンポンプ阻害薬):オメプラゾール、ランソプラゾールなど。胃酸を強力に抑える。
- H2ブロッカー:ファモチジン(ガスター)、ラニチジンなど。
- 胃粘膜保護薬:スクラルファート、レバミピドなど。
- ピロリ菌除菌:抗生物質(クラリスロマイシン、アモキシシリン)+PPI の3剤併用。
病院と市販薬(OTC)の費用比較
市販薬(OTC)
- ガスター10(12錠):1,200〜1,500円程度
- 太田胃散(16包):800〜1,000円程度
👉 軽度の症状なら 1,000〜2,000円程度 で対応可能。
病院での治療
- 初診料:約3,000円
- 胃カメラ検査:保険適用で約5,000〜8,000円
- 薬代(PPIなど):1か月で1,000〜2,000円程度
- 合計:初回で 1万円前後 かかることもある
👉 検査が必要な場合は病院が望ましいが、軽い胃痛だけならOTCのほうが安上がり。
胃痛に関するQ&A
Q1. 胃痛にロキソニンやバファリンは使っても大丈夫?
→ いいえ。NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)は胃粘膜を荒らす副作用があるため、胃痛時は避けた方が良いです。
Q2. ストレス性の胃痛は薬で治るの?
→ 一時的には薬で改善しますが、根本的には「ストレスマネジメント」「規則正しい生活」が大切です。必要なら心療内科の相談も有効です。
Q3. 胃痛に効く食べ物・飲み物はありますか?
→ 消化の良いもの(おかゆ、うどん、バナナ、ヨーグルトなど)が推奨されます。コーヒー・アルコール・脂っこい食事は避けましょう。
Q4. 市販薬と病院の薬、効果はどちらが強い?
→ 一般的に 病院の薬の方が強力と言われていましたが、PPIも店頭でOTCとして販売開始されましたので差もなくなってきました。ただ、お薬の成分量としては依然病院のほうが高いものが扱えます。
Q5. 胃痛と胃がんの見分け方は?
→ 自分で区別するのは困難です。特に「長引く胃痛」「黒い便」「体重減少」がある場合は早急に受診してください。
まとめ|胃痛に悩むときの市販薬と病院受診の目安
胃痛は、食生活やストレスによって一時的に起こる軽度な症状から、胃潰瘍・逆流性食道炎・胃がんなどの重大な病気まで幅広い原因があります。
- 軽度の胃もたれ・胸やけ → 市販薬(OTC)でセルフケア
- H2ブロッカー(ガスター10など)
- 制酸薬(太田胃散、スクラート胃腸薬など)
- 胃粘膜保護成分(アルギン酸、スクラルファート類似薬)
- 漢方薬(六君子湯、安中散など)
- 症状が長引く・強い痛みがある → 病院受診
- 胃カメラによる精密検査
- PPI(プロトンポンプ阻害薬)などの強力な薬物治療
- ピロリ菌除菌
👉 市販薬で改善しない場合や、出血・体重減少などのサインがある場合は早急に病院へ行くことが重要 です。
胃痛対策のポイント(チェックリスト)
✅ 脂っこい食事・アルコール・刺激物を控える
✅ 規則正しい食生活(1日3食、夜食を避ける)
✅ ストレスケア(休養・睡眠・運動)
✅ 薬の飲みすぎに注意(痛み止めNSAIDsは胃に負担)
✅ 自己判断で市販薬を長期使用しない
最後に
「胃痛くらい…」と放置してしまいがちですが、症状が続く場合は体からのSOSサインかもしれません。
市販薬でセルフケアできる範囲を知りつつ、必要なときは病院に相談することで、早期に適切な治療を受けられます。
👉 この記事を参考に、自分に合った胃痛対策 を見つけてみてください。